
「アンタねぇっ‥、だからアタシが言ったでしょっ!あの男だけはお止めってっ! アンタの方が泣くことになるわよって‥、アタシ言ったのアンタだって忘れた訳じゃないわよねっ!」 「だぁってぇ〜っ‥ママぁ〜っ、」 「だってじゃないわよっ、アンタっ!何がだってなのよっ! あの男は浮気性なのよって教えたじゃないっ! 直ぐに捨てられるわよっって言ったわよねっ! ‥えぇ〜っ、店ん中寒いってぇ〜っ!‥アタシは暑いのよっ!‥ ‥デブってるからだってっ‥お黙りっ!‥アタシは太ってるんじゃないのっ‥肉付きが良いだけなのっ!‥ ‥ちょっとケンチャン‥こっちで大事な話してんだから‥アンタ、チャチャ入れないでちょうだいよっ!‥ えぇ〜っと‥どこまで話したのかしら‥、 そうよっ!アタシがあれだけ反対したのにくっついちゃったんでしょっ、アンタ達! アンタ‥、それを上手くいかなくなったからってアタシんトコへ泣き付いてくるのはおかしかないかぃ? そうでしょぉ〜ぅ、お門違いってもんだわよっ!!!」 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 「何っ、何、泣いてんのよっ!良いかぃ、真治っ! 泣いて男が戻ってくるんなら、何の世話も要らないわよっ! 昔から言うでしょっ!‥『泣いて昔が返るなら、何の愚痴など言うものかぁ』‥って、 エェッ!知らないっ!?ホントっ?ホントに知らないのっ? ‥エェッ、何?何なのっ、ケンチャンっ!?‥それは懐メロの文句だってぇっ?‥嘘ぉっ‥そうなのっ‥ ‥チョットォ‥ミチさんって‥ミチさんなら知ってるでしょっ‥今、ケンチャンが言ったのホントなのっ?‥ ‥エッ、何て歌だって?‥『お吉物語』‥そんな歌知らないわよっ‥ ‥どうして、ケンチャンやミチさんが知ってて、アタシが知らないのかしらぁっ‥やっぱ、アタシの方が若いからかしら‥ ‥そうっ‥そうよねっ‥ ‥キャッ‥ちょいとケン子っ‥アンタっ、かりそめにもこのアタシにオシボリ投げ付けるなんてっ‥百万光年早いわよっ‥ ‥いい加減におしっ‥ ‥エッ‥何っ‥汗が流れ落ちてるって‥これで拭くのっ?‥判ってるわよっ‥ ‥でも、どうして今夜はこんなに暑いのかしらぁっ‥ ‥何っ?ケンチャンっ?‥こっち側は寒いって‥そりゃそうよっ!‥エアコンの噴出口はそっちに向いてるんだから‥ ‥ねぇ〜っ、真治っ!‥ ‥あらぁっ‥そうよねっ‥アタシがそっちに行けば良いのよねっ‥どうして気付かなかったのかしらっ‥ ‥誰ぇっ‥今、惚けてるって言ったのはっ!?‥聞こえたわよっ‥アタシ、耳だけは良いんだから‥ ‥ちょっと哲ちゃん‥アタシ、表に出るから‥カウンターん中は頼んだわよっ‥ ‥エェッ?‥表に出て何処へ行くかですってぇっ‥ ‥アンタぁっ‥何を言ってるのっ‥聞いてなかったの?‥今の話っ‥表ってったって外に出る訳ないわよっ‥ ‥第一‥アンタ‥こんな夜中に店の外で‥このアタシに客引きでもしろって言うのかしらっ‥ ‥全く‥どいつもこいつも‥アタシを何だと思ってるのかしらぁっ‥ ‥ちょっとぉ〜っ‥嫌っ‥哲ちゃんっ‥アンタ‥何‥アタシのお尻を触ってんのよっ!‥ ‥潜れるわよっ‥カウンターの下ぐらい‥毎日、潜ってるんだから‥お尻がつっかえそうだってぇっ‥ ‥おだぁまりぃ〜っ‥あのねぇ〜っ‥言っときますけどねっ‥アンタ達っ‥アタシを何だと思ってるのっ!‥ ‥アタシは、知る人ぞ知る“二丁目のポン子”よっ!‥ ‥二丁目でアタシのこと知らなきゃ潜りだって言われた時代も有ったのよっ!!!‥ ‥昔は‥アタシ目当てに‥お客が鈴なりになって‥入り切れないことだって有ったんだから‥ ‥馬鹿におしでないよっ!‥全く‥ねぇっ‥ミチさん‥ ‥エッ‥昔は痩せてて可愛かったってぇっ‥ふんっ‥良いのよっ‥今だって‥これでも良いって男は居るんだから‥ ‥放っといてちょうだいっ!‥ ‥ちょぃと哲ちゃん‥アタシにおビールっ!‥真治のおごりで‥ ‥良いのよっ‥今から‥真治に説教してやるんだから‥ ‥早くしてよっ、グラスっ‥ビール出したってグラスが無きゃしょうがないでしょっ‥ ‥ホントっ‥しゃべり過ぎて喉がカラカラだわっ‥ あらっ、真治っ、アンタ、何笑ってんのよっ! 今の今まで、泣いてたくせして!」 「だってぇ、だって、ママ、面白過ぎるんだものっ!」 「おだまりぃぃぃっ!!! あのねぇっ、ちょっとアンタ達っ!いいかぃ!このアタシはお笑い芸人じゃないのよっ! アタシは女優(にょゆう)、女優なのよっ!!! “にょゆう”って何だってぇっ! ホントっ、ホントに今の若い子はモノを知らないんだからっ! あのねっ、明治時代は、“じょゆう”のことを“にょゆう”って呼んでたのよっ! 良く覚えときなさいっ!!! ‥聞こえたわよっ!‥誰がっ‥明治時代から生きてる生き字引なのよっ!?‥ ‥アタシのことを杉村春子や山田五十鈴と一緒にしないでちょうだぃ!!!‥ よっこいしょっとっ‥。 何が可笑しいのよっ!真治っ!!! でもねっ、アンタっ、笑ってる方が可愛いわよっ! この世界で生きてりゃ、捨てられることの一つや二つは経験するんだから‥。 一々泣いて、この世の終わりみたいな顔しててごらんっ!? そんな顔してると、幸せの方が逃げて行くもんよっ! 判ったっ!? そうそう、笑ってるのが一番っ! アンタ、オネェさえ出さなきゃモテるんだけどねぇ〜っ! 嘘じゃないわよっ!ウチの店に来る若い子ん中じゃぁ一番・二番のイイオトコなんだから‥。 その顔で短髪、それに体育会系上がりの社会人一年生って来たら‥、 その上、アンタっ、中フケ好きのウケなんだし‥。 絶対、付き合う相手選んだら幸せになれるわよっ! ほらっ、カウンターの向こうの端に座ってるミチさん居るでしょ? ミチさんなんて、アンタのこと「いいっ!いいっ!」って言ってるのよっ!」 「‥ホントにっ!‥でも、今まで隣に座ってても‥何にも言われたこと無いものっ???」 「そりゃぁ‥アンタっ、アンタを捨てたあの男みたいに、若い子見れば誰だって言い寄って、 その気になった若い子を喰うだけ喰っちゃポイっするような男も居れば、 本気の恋愛求めて、じっくり相手を探してるミチさんみたいな人も居るわよっ!」 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 「アンタ、何、下向いて真っ赤になってんのよっ!酒も飲んでない癖に‥。 アっ、アンタっ、ミチさんのことイケるのっ??? そうなのっ!? だったら、アンタっ、なんでもっと早くアタシに言わないのよっ! 馬鹿ねぇ〜っ‥。 ミチさん、アンタがあの男と付き合ってるって聞いてショック受けてたのよっ! 今夜だって見てごらんっ! 普段なら終電で帰るミチさんが、アンタが居るもんだから、終電終わっても残って飲んでるでしょっ!!! いいわっ!判ったわよっ!ミチさん、呼んできて上げるから‥。 大丈夫よっ!アタシに任せときなさいってっ!!!」 「待って、ママっ!恥ずかしいよっ!!!それに‥別れたばっかりだし‥。」 「別れたばっかだから、話聞いてもらうんでしょ! それにアンタっ、何も今夜どうこうならなくても良いでしょっ! ‥今夜は話してみて‥、良いなって思ったら、電話でもメルアドでも交換して、それから、よく考えてから 連絡したら良いことじゃないのっ! 兎に角、アタシに任せておきなさいって! 但し、あんまりキツいオネェは出さないのよっ!イイわねっ! 判ったわねっ!!! 真治っ!しっかりなさいよっ!!! ‥ちょっとぉ〜っ!ミチさぁんっ!!!‥ ‥悪いけど‥アンタっ‥こっち来て‥この真治の話聞いて上げてよっ!‥ ‥アタシ‥ちょっと‥酔っちゃったからさぁっ‥ ‥哲ちゃん‥ミチさんのボトルセット‥こっち持って来てっ‥ ‥ここっ‥真治の横にセットし直して上げて‥ ‥ミチさんっ‥頼んだわよっ!‥この失恋青年の話‥聞いて上げてねっ‥ ‥あらぁ〜っ‥ちょぃとぉっ‥ケンチャン‥ ‥アタシっ‥久し振りに‥アンタの横に座って上げるわっ!‥ ‥哲ちゃんっ‥ケンチャンのボトルでアタシに水割り作って‥ ‥イイわよねぇっ‥あらぁっ‥カァンパァイィッ!‥ ‥ケンチャンっ‥何か唄ってよっ!‥何でもイイわよっ‥エッ‥ ‥リクエストぉっ‥そうねぇっ‥アンタが普段唄わないヤツにして頂戴っ!‥ ‥何?何なのっ?この歌っ???‥ ‥“♪〜泣いてっ、昔ぃがっ、返ぇるぅならぁ〜、何のっ愚痴なぁどっ言うぅもぉのかぁぁぁ〜♪”‥ ‥あらぁっ‥知ってるわよぉっ!‥そうなのぉっ‥この歌が『お吉物語』って言う歌なのっ‥ ‥昔‥働いてた店で‥酔っ払うたんびに‥ママが良く唄ってたわよっ!‥ ‥この歌‥台詞が有るのよねっ!‥台詞はアタシが言うわっ!‥ ‥知ってるっ!‥判ってるわよっ!‥ちょぃと‥マイクだよっ!‥ ‥マイクをお貸しぃ〜っ!!!」 こうして、‥二丁目の夜は更けていきます‥。 《出演》 ポンちゃん:この店のマスター(ママ?)40代・太目? 真治 :外見はモロ体育会系なのに、オネェの社会人一年生 哲ちゃん :従業員 20代後半の短髪 マスターの彼氏と云う噂 ミチさん :古くからの客 若専だけど奥手な独り身 50代前半 ケンチャン:30代の客 いつも、店でマスターのオモチャに